「このおむすび、食べてみて」と、政城裕明(まさしろひろあき)社長に促された。普段見慣れたご飯と比べると、粒立ちがきれいで、白さが際立っている。ひと口ほおばると、もっちりとした歯ごたえとともに、上品な甘い香りが口の中に広がった。「このあたりの農家が、昔から自分の家族で食べるためにつくってきたお米。そんなに多くは獲れないので」と、妻の桂子(けいこ)専務は微笑む。
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マサシロ(広島県府中市)が社屋を構えるのは、市の北部の上下(じょうげ)町。中国山地の分水嶺がある、かつての宿場町だ。山と谷の間にある小さな平地に集落や、棚田などの農耕地が散らばっている。清流があって昼夜の寒暖差が大きいので、おいしい米が獲れる条件がそろっている。同社はここで農機具の販売・整備や、水田所有者からの委託による米栽培など、米づくりに関わる様々な事業を手がけている。
上下町で獲れる米は、おいしさでは全国各地の米どころにも引けをとらない、という自信を持っている。だが、知名度の差は大きかった。県外に販路開拓に行った時、食べもせずに「広島の米? 聞いたことないし、要らないよ」と、門前払いされることも多かった。平地が少なく、収穫量を増やすことには限りがあるこの上下町で、米づくりを将来にわたって維持、発展させていくためには、「おいしい米」として広く認知してもらい、それを単価の引き上げへとつなげていく必要がある。そう考えた政城夫妻は、2017年に新しいブランドを立ち上げた。この地の標高480mにちなんだ「四八米」(しはちまい)だ。
品種は、こしひかり。それに、植物を発酵させてつくった肥料で育てた「こしひかり酵素栽培」や、さらに農薬などの化学物質を吸着、分解する光触媒も併用した「こしひかり酵素プレミアム」という、3種類の四八米を用意した。
やはり最初は、販売に苦戦したという。百貨店での取り扱いが始まり、とにかく味の良さを知ってもらおうと店頭での試食に力を入れていた時だ。お客さんの手応えが感じられるようになった矢先だった。百貨店側から「価格が高すぎる」と言われ、棚から外された。でも後日、「百貨店に置いていないので、どうしても欲しくて買いに来た」と、足を運んでくれたお客さんがいた。目指してきた方向に間違いはない、と政城夫妻は確信を持った。
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四八米の「こしひかり酵素栽培」は5kgで7000円、「こしひかり酵素プレミアム」は1万5000円。市場に出回ると、こしひかりのなかでも、かなり高額の部類に入る。「贈られてうれしいお米、というブランドに育てていきたい」と政城夫妻は目論む。今では百貨店のギフト商品、自動車ディーラーや保険会社の成約客向け贈答品などとしてのニーズも増えてきた。ギフト需要を重視し、2合入りの小型のパッケージも用意。首都圏の顧客に人気だそうだ。この袋詰め用の設備も新たに導入した。
四八米の生産量は、初年は9トンだったのが、地域の農家や農事組合法人とグループを組んで生産する体制を整え、2019年は90トンにまで増やせた。高価格での販売が前提だから、生産者からの買い取り額も高く設定でき、生産者も喜んでグループに入ってくれる。
地域の特性に合った新しい米づくりの仕組みが回り始めたマサシロでは、若い人材、特にエンジニアを求めている。同社が手がけている農業支援事業の1つに農機具の整備や修理があるが、近年の農機具は電子化が進んでいるため、技術的な知識を持った人材が欠かせないという。
株式会社マサシロ
広島県府中市上下町小堀1341
売上高:1憶8490万円
従業員数:8人