北川鉄工所(きたがわてっこうしょ、広島県府中市)は、1918年、北川船具製作所として誕生し、創業100年を迎えた。滑車や操舵輪など木造船用機械器具の製造販売からスタートし、滑車にかけた麻ロープを巻き取る手巻きウインチや、滑車を動かすときに使うベアリングの製造に着手したことから、鋳物加工の分野へ事業を拡大。今では、金属素形材事業、工作機器事業、産業機械事業の3分野を柱とするものづくりに取り組んでいる。
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1本目の柱が、売り上げの半分を占めるという金属素形材事業。自動車部品を中心に、農業機械部品や建築機械部品など、グラム単位の精密なものから100キロに近い重さのものまで、様々な部品を製造している、なかでも、加工しやすいオリジナル素材を開発していること、幅広いニーズに対応するため複数の製造方法を導入していること、さらに、鋳造から加工、組み立てまでの一貫生産で加工完成品を提供できることは、北川鉄工所ならではの強みとなっている。タイ、メキシコへも工場を展開し、世界で生産される新車のおよそ10台に1台が、北川鉄工所で作った部品を搭載している。
2本目の柱が、工作機器事業。この事業では、旋盤に装着して加工物をつかむ「チャック」や、1台で削ったり磨いたり穴を開けたりという異種の加工を行うことができるマシニングセンタに装着して、加工物を任意の角度に回転させる「NC円テーブル」、加工物を挟んで締め付け固定させる「パワーバイス」などの製造飯場を手がけている。それぞれが、車や家電など身の周りのものを作るのに無くてはならない工作機械の加工を支える重要な補用機器だ。1000分の1ミリのズレも許されない精密さが必要で、特に「つかんで回す」が役割のパワーチャックは、年間2万台、世界180カ国で使用されていて、その規模や品質において「世界標準」と呼べるほどの地位を確率している。
加工製品の形状が多種多様になっているなか、顧客からの「こんな形のものをつかめないだろうか」との要望に応えるため、特殊チャックの設計も行う。職種を超えたスタッフが集まり、新たなノウハウを加えた、世界に一つだけのオーダーメイド品だ。この臨機応変な対応力と制度の高さが国内シェア60%という実績を打ち立てるそこ力かもしれない。また、中国、米国、ヨーロッパに工場や営業・サービス拠点を持ち、世界の顧客ニーズに応えようと取り組んでいる。さらに、技術革新が進む工作機器の分野で、これまでにない画期的な形状のチャックの研究も進んでいるそうだ。
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3本目の柱は、クレーンやコンクリートプラント関連製品、立体駐車場など、国内のインフラ整備に関わるスケールの大きな事業を手がける産業機械事業だ。赤と白のタワーのようなクレーンを工事中のビルで見かけたことがあるだろう。橋の建設など数々のビッグプロジェクトで力を発揮し、特に「ビルマン」の愛称で呼ばれる建設用タワークレーンは、国内トップの販売シェアを誇っている。ほかにも大ヒット商品のコンクリートミキサ「ジクロス」は、練り混ぜの障害となっていたシャフトを取り除き、螺旋状のアームを使うことで、どんな生コンでも高速で満遍なく練り混ぜることができる混練スピード業界一の優れものだ。
3本の柱をベースに、これまで蓄積された技術や知識を組み合わせた新規事業にも力を入れている。新規分野を担当する開発本部では、更なるレベルアップにつながる技術の開発や新たな事業を生み出す役割も担っている。環境分野では産業廃棄物を処理するミキサを、医療機器では微小重力環境細胞培養装置を開発している。これまで培ってきた技術と新たな技術を融合し、さらに付加価値の高い製品を作り出す、これが北川鉄工所のパイオニア精神だ。
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東洋経済「CSR企業総覧」2018年版に掲載された、2016年度の1年間で離職者が少なかった会社ランキングでは、同社はなんと1位。日本一離職者の少ない会社として認められたわけだ。
チームワークを必要とする仕事だけに仲間意識が高く、プライベートでも気軽に声をかけ合う雰囲気が出来上がっている。実際、北川鉄工所で働く人は、はたから見ても、とても雰囲気がいい。「夏休みに家族も呼んでくれてバーベキューしたんよ。子供も楽しめてよかったわあ」「ほんま、ええ人が多いけ、ありがたいんよ」という話を聞くほど。なので、地元では「北川鉄工所で働いている人と結婚するんよ」というと「それはしっかりした会社の人と縁があってよかったんなあ」ということになる。
しっかりしたベースがありながら、グローバルな視点で新しいことにもどんどんチャレンジしていこうとしている北川鉄工所。一人ひとりの可能性をじっくり育てたいと新入社員を対象とした研修に注力。3事業の各部門を体験することで、ものづくりのベースとなる力を養い、発想力や開発力アップを目指している。さまざまな専門知識を発揮できるフィールドがあり、新しいものをつくって発信していきたいと思う人には、そのチャンスもある。こつこつまじめに一つのことを取り組む辛抱強い人から、何事に対しても積極的に取り組もうとする人まで、幅広い人材を求めている。
株式会社北川鉄工所
広島県府中市元町77-1
売上高:560億5100万円(連結)
従業員数:1323人
※ この記事は、広島県府中市「WORK & LIFE GUIDE BOOK 2019-2021」(2018年11月発行)を再編集したものです。