ペーパー試験もなければ、面接もない! 標高500mほどの妙見山(みょうけんさん)までハイキングをし、府中公園でバーベキュー、その後は工場見学をして解散――。
この新しい採用試験を試みるのは、創業140年を超える府中味噌蔵、金光味噌(かねみつみそ、広島県府中市)だ。「一緒に働くのだから、苦しい山登りや、楽しいバーベキューをするなかで、人となりを感じさせてもらえればと思って」と、金光康一(かねみつこういち)社長自らが本気で人材探しを行う。
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味噌といえば日本の食卓に欠かせない調味料というイメージだが、金光味噌の市場は5割以上が海外。40年前から輸出を始め、ヨーロッパを中心に、オーストラリア、北米、アジアなど各国の食文化にアレンジした製品を開発して、積極的に現地の展示会へ乗り込んでいく。同社のSNSをチェックすると、海外での商戦の頻度に驚く。
それに合わせるように、製品開発もハイペースで、多いときには月に3、4品もの開発が同時進行。「お味噌汁の味噌」という限られた枠ではなく、ドレッシング、ディップ、カレーなど、表現を広げて、現在は70品以上もの自社製品が世界中のスーパーマーケットに並んでいるのだ。
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各国で通用する強みとなっているのは、140年以上もの長い期間、蔵で様々な菌と戦い続け、成長してきた「蔵菌」の存在。どの味噌蔵とも違う、同社だけの深い味わいの基礎になっている。
さらに、有機素材による味噌づくりを先駆けて実践したことで、オーガニック市場である海外の消費者に受け入れられてきた。米国では小麦を含まないグルテンフリー製品が、ヨーロッパでは塩分濃度が醤油の半分以下の醤油麹が伸び続けている。こうして海外向けに企画した製品が、めぐりめぐって今少しずつ日本でも注目され始めているという。
「味噌って発酵食品の中でも、不思議な力を持っていると思うんです。ヨーグルトやチーズとは違い、メカニズムが複雑。その分、商材として無限の魅力がありますね」と、金光さんは新たにインドやネパールにも仕掛けていく勢いだ。面白い企画を次々と形にしていく斬新さと、ユニークな採用方法を試みる柔軟さとを併せ持つ味噌蔵。クリエイティブな仕事ができる会社だ。
金光味噌株式会社
広島県府中市府中町628
売上高:1億5000万円
従業員数:18人
※ この記事は、広島県府中市「WORK & LIFE GUIDE BOOK 2019-2021」(2018年11月発行)を再編集したものです。