ワークウエア、いわゆる作業服を製造している旭蝶繊維(あさひちょうせんい、広島県府中市)の製品カタログ。デニムのウエアなどをおしゃれに着こなしている若者の写真やイラストで埋め尽くされている。まるでファッション通販カタログのようだ。
同社が、戦時中の軍服の製造から戦後に作業服へと主力を転換して今に至る、80年以上の歴史ある企業であることに気づくのは難しいかもしれない。
そもそも「ワークウエア」という外来語が日本で定着するその一翼を、同社が担ったという言い方をしても大げさではない。児玉賢士(こだまけんじ)社長は「世界標準の仕事をしたい。そんな思いで、海外で通じるこの言葉を、同業他社に先駆けて10年以上前から使い始めた」と振り返る。
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デニムのワークウエアに話を戻そう。同社がこれを発売したのは2015年で、それまではデニム地を作業服に使うのはタブーだったという。生地が重く、動きにくい。洗濯した後の乾きが遅い。色落ちの度合いにばらつきがあるので制服にはふさわしくない、という声もあった。デメリットの指摘は多かった。
そこで同社は、同じ備後地域にあるデニムのカジュアルウエアのメーカーと連携し、軽量でストレッチ性能のあるデニム素材を用いたワークウエアを開発し、発売した。価格は一般のウエアより高くなったが、それでも売れ行きは上々だという。「既成概念にとらわれずにニーズのある製品をつくれば売れる。世の中に、ありそうでなかった物を生み出し続けていきたい」(児玉さん)
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2012年に発売したポケットのないワークウエアも、それまでは収納を増やすことに一辺倒だった業界の常識に一石を投じた製品だ。「そんなものが本当に売れるのか」といぶかる声が社内でも上がったが、発売した後、製造ラインへの異物混入のリスクをなくしたい企業から、引き合いが続いている。
2018年にはハーフパンツ型のワークウエアを発売した。海外では珍しくないが、日本製は見かけない。でも熱中症対策としてのニーズがあると判断して、ラインアップに加えることにした。「すぐ同業他社もまねをしてくるに違いない」と児玉さんは笑う。
旭蝶繊維株式会社
広島県府中市府川町110
売上高:26億円
従業員数:140人
※ この記事は、広島県府中市「WORK & LIFE GUIDE BOOK 2019-2021」(2018年11月発行)を再編集したものです。